水に弱い性質をもつ本革
本革というものは本来水に弱いものです。本革製品を購入すると必ずといっていいほど「使用上の注意」が添付され、その中でもとくに水に濡れた場合の注意事項が念入りにかかれているかと思います。当店でも商品ページと商品への同梱資料として革の使用上の注意事項を明記し、水濡れに関しての記載をしています。
革は水に濡れるとシミになりやすく、色がついている場合は色落ちの可能性が出てきます。コードバンになると濡れたまま放置すると水ぶくれという現象の可能性もございます。
水に対する耐性は染め方によっても異なります。顔料で染めた革は比較的水に強く、染料で染めた革は弱く、素上げのヌメ革(タンニンでなめした革に染色等の加工を施していないもの)はさらに弱くなります。
ですので本革製品を水に濡れる可能性のある環境で使う場合は顔料で染められたものを使うか、防水スプレー等で表面に撥水加工を与えるといった手入れが必要になります。顔料であっても水に濡れる時間や、劣化が進んで塗料の付着が弱くなったものでは水に対する耐性を失っている場合もあります。また、革を自然の表情のまま使いたいという方にとっては顔料で表面を覆ったものよりも染料で染めたものを使いたいという方が多く、その中で水とどう向き合うかを考えることも多いでしょう。
さて、水に濡れやすい環境での使用というと、バッグや財布もそうですが特にアパレル関係が考えられます。革ジャン、革靴、そして革手袋。TAVARATでは革ジャン、革靴は扱っていませんが、革手袋を扱っています。
その革手袋の中で、今回ご紹介するのが防水加工をほどこした鹿革で作り上げた革手袋です。
株式会社藤本安一商店
今回革手袋を作るにあたって、タンナーさん(皮革製造業者)とともに革作りから始めることとなりました。革作りを依頼したのは和歌山で90年以上も革を作り続けているタンナー、株式会社藤本安一商店商店さんです。
藤本安一商店さんへについてはこちらの記事を参照下さい。↓↓
製品作りをするにあたって、基本的には革作りの工場さんと相談して革を決めるのですが、革はタンナーさんが一般的に作っているものを使います。今回は少し特殊で、この製品、この革手袋のためだけの革を作ることになりました。製品に求めたのは男心をくすぐる力強い印象のある手袋であり、なおかつ機能性のあるもの、そして革らしい質感を活かしたものという点です。
革は鹿革を選択しました。ディアスキンと呼ばれることが多いですが、株式会社藤本安一商店商店さんの得意とする革です。性質的に手袋に向いているという点も決めてです。
鹿革
鹿革は日本古来より武具などを中心に長く使用されてきました。その理由は動物の皮革のなかでも特に柔軟性と吸湿性、そして軽さを誇ること。動きに対する強さと軽さを必要とする武具には欠かせない革だったのです。鹿革は繊維間に空洞があり、同じ厚みでも牛革よりも軽いという特徴があります。今回の手袋は少し厚みがあります。手袋としてしっかりとした厚みを出しながら、決して重くならないのは鹿革ならではといえます。革はニュージーランド産のアルペンディア。「ニュージーランドなのにアルペン?ヨーロッパじゃないの?」と思われた方もいるかもしれませんが、実はニュージーランドには植民地時代にイギリス貴族が持ち込んだ食肉用の鹿が現在も育てられており、ヨーロッパへ輸出されています。その皮を輸入し、鹿革製品へと加工しているのです。日本にも鹿はたくさんいるんじゃないの?と思われるかもしれませんが、日本では食肉として育てられている鹿はおらず、野生の鹿は傷だらけで製品として使うことは難しいです。そのためニュージーランドから原皮を仕入れてくるのです。これも決して流通量は多くありません。
染料による浸通しでの染色、そして防水機能
本題ですが、この鹿革手袋には防水機能を付加しています。もちろんですが、スプレーをかけるような手入れ的な防水機能ではなく、革の染色時に特殊な加工を施して繊維自体に防水機能を付与しています。ですので定期的に防水スプレーをするといった手入れは必要はありません。水に濡れないということは染色された色が抜けることがなく、すなわち色落ちもしないという強みが出てきます。
手袋ですので使用に際し、急な雨などによるシミ、色落ちが心配になるのですが、それをクリアするための防水機能付与です。顔料であれば急な雨水程度であれば弾いてくれますが、動きの多い手袋に関して表面を覆ってしまう顔料では時間経過とともにひび割れが出たりします。質感としても少しテカテカとした感じになり、革らしさが消えてしまいがちです。ですので染料で、浸透しで染めたい。だけど水に対する耐性も欲しい。そこで防水性能の付加です。さらっと書きましたが決してどこのタンナーさんでも簡単にできるといった代物ではなく、こういった革を作れるタンナーさんは限られてきます。革新的な革を作り続ける株式会社藤本安一商店さんの技術があってこそ、この製品にこの革を使用することができました。
↓の動画はこの革手袋と3種類の革に水滴をたらしたあとの経過を微速度撮影したものです。実際には5分の経過となりますが、動画は10秒で終わります。黄色く見える革は染料で染めたタンニンなめしの革、ベージュに見えるのはタンニンでなめした革になんの加工も付加していないもの(素上げのヌメ革)、右下は顔料で染めた革です。
Tps-027に使用する防水レザーと、ヌメ革や顔料染めの革との耐水性能の比較
ご覧の通りで、革手袋と顔料で染めた革は垂らした水滴がそのまま5分間残っています。拭取ってみると↓の通り、何も無かったかのような表情になります。一方で染料染めのタンニン革と素上げのヌメ革は徐々に水分が浸透し、染みていくのがわかります。5分後には水滴が無くなり、大きなシミになっています。
この後拭取ったのがこちら↓
もちろん濡れたままではないので時間が経てば乾いてゆきます。↓が陰干して24時間経過したもの。染料染めのタンニン革はうっすらと円状のシミができています。素上げのヌメ革は写真ではわかりにくいですが小さな斑点みたいなものができています。
ということでやはり染料染めの革や素上げのヌメは水濡れを気にしないといけないなという印象です。もちろん使っていれば色々なシミや汚れはつきものですし、わりとそれらも愛着に代わっていったりするのですが外で使う手袋に限ってはできるだけ気にせず使いたいところだと思います。ですので防水レザーを使った革手袋というのは「雨によるシミや色落ち、それと突然の雨で手袋がビショビショになってしまうということを避けるには良い選択肢だと考えています。
1点注意いただきたいのは、本製品には防水レザーを使用していますが製品として完全防水できるものではありません。手袋の入口から水が入ることもありますし、縫製のすきまから侵入する場合もあります。ですのでそういった点はご考慮下さい。
透湿機能
さて、少し防水以外の性能という点で書かせて頂きます。防水機能というと外部を覆ってしまって通気性はどうなんだろう?と思われるかもしれません。が、本製品は先ほども書かせて頂ききましたが外部を覆っているのではなく繊維に防水機能を付加してあるので透湿性がございます。鹿革は本来透湿性にに優れた革で、防水加工をしてもその性能を損なわないことで、防水性能を保持しつつ内部の湿気を外に逃す機能的な手袋になっています。内部素材にキュプラを使用して肌触りと透湿性能を強めているのではめた瞬間の暖かさは強くはありませんが、厚みのある革が徐々に温もりを感じさせてくれます。
デザイン
シボが多くラムやシープよりもゴツゴツしいイメージの鹿革ですが、ベーシックな形に仕上げることでドッレシーなスタイルになっています。ビジネスシーンでも格好良く使えますし、もちろんワイルドな服装にもしっくりとはまるスタイルです。手袋の製造は香川県の工場。国産革手袋の多くがこの香川県で作られています。
最後に
ながくなりましたがTps-027鹿革手袋のご紹介をさせて頂きました。革作りに関して何度も訪問し、お忙しい中で数回にわたって工場を丁寧に御案内くださったのは株式会社藤本安一商店の藤本拓朗さん。いつ訪問しても革について熱く、丁寧にご説明くださります。おかげでお会いするたびに革に関する知識が増え、毎度訪問が楽しみでなりません。
藤本さんの革作りに対する熱いお気持ちを聞けたからこそこの製品を作ってみようと踏み切ることができました。この情熱を頂きながら、今後も一緒に独自の革を使った製品を作って行きたいですね。革にしても製品自体にしても、作り手の想いを聞くというのは販売をする私にとって大事な工程になります。こうしてお聞きした話をどのようにお客さまへお伝えするか、それができるかできないかで作ってくださった製品の良さを知ってもらえるかもらえないか分かれてくるからです。これからも作り手の想いが届く製品作り、続けていきたいですね。
TAVARAT Store Manager 山本
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