皮革製造の工場見学~和歌山市の株式会社藤本安一商店様へ~

少し前になりますが、初めてタンナーさん(皮革製造業者)の工場を見学させて頂きました。タンナーさんというのは簡単に説明すると、動物の皮(原皮)を製品としての革に仕上げる仕事をされている工場です。

動物の皮というのは生ものですから当然ですがそのままでは腐ってしまいます。ですが革製品って使っていて腐ることは無いですよね(管理状態によってカビが生えることはあるかと思いますが)?これは原皮に特殊な加工をして腐らないようにしてあるからなんです。その工程こそタンナーさんが行う「なめし」です。なめしについては下記の記事で簡単にですが書かせて頂いておりますのでこちらでは割愛します。↓↓

tavarat.hatenablog.jp

さて、タンナーさんといえば革の好きな方なら姫路か栃木をイメージするかと思いますが、今回訪れたのは和歌山市にあるタンナー、株式会社藤本安一商店さんです。日本の皮革産業はほとんどが姫路地域で行われ、最近では栃木レザー株式会社の革も有名になっていますが、洋式の「なめし」を始めに行ったのは和歌山だそうで、その歴史は明治の時代にさかのぼります。紀州出身で政府の役職へと就いた陸奥宗光が、明治の軍制改革で採用された洋式の軍靴を作るために、ドイツから革細工師を招いて和歌山に革製作伝習所が開かれ、ここでで鞣革の製造が始まったことが日本の洋式なめし革の革作りの始まりだそうです。(革自体は古来より各地で作られているので全ての発祥ということではなく、「近代皮革産業」の発祥が和歌山であるとのことです。)

お話を聞いていると歴史の授業のようでもあってとても楽しかったです。

参考↓↓(和歌山市のwebサイトです)

www.city.wakayama.wakayama.jp

明治維新の時代から100年以上経ったいま和歌山の皮革産業は衰退の流れにあります。お話を聞かせて頂いたところ、和歌山は非常に保守的な地域であるため、姫路がいちはやくクロムなめしをスタートさせ産業用の皮革製造で大きく成長したのに対し、和歌山はその流れに取り残されてしまったのだそうです。ただ、今回訪れた株式会社藤本安一商店さんは和歌山で残っている数少ないタンナーであり、常に高品質の革を作りだそうとする熱意と技術をもって各種大手スポーツメーカーさんやブランドさんの要望や依頼に応えてこられたタンナーさんです。さらっと書きましたがこの「大手スポーツメーカさんやブランドさんの要望」に応えるのは簡単なことではなく、それに応えるために培ってきた技術が今の礎になっているのだそうです。

株式会社藤本安一商店さんは1921年創業の老舗中の老舗のタンナーさんです。スポーツ用の皮革や靴用の革、衣類用の革などを製造していて、数ある革のなかでも鹿革を得意とされています。鹿革は日本古来から使用されてきた革ですが、近代皮革として製品作りをされているタンナーさんはほとんどないそうです。

今回この株式会社藤本安一商店さんを訪問させて頂いたのは、この冬の商品としてこちらで製造頂いた鹿革にて作る革手袋の資材納品で伺ったついでに工場を見学させて頂けませんか?とお願いしたところ、快く快諾頂いた次第です。さらに写真撮影もOKで、ブログ等に載せることも全く問題ないとのことでした。「見られたところで真似できるような技術ではない」というところに強い信念と自信を感じることができました。

私自身タンナーさんを見学するのは始めてのことで、非常にワクワクしておりました。自社の製品に使われる革がどうやって完成するのか?ということには非常に興味がございますし、ただただ工場見学という響きにテンションがあがるのは今も昔も変わりません。

 

外観を撮るのを忘れておりましたので倉庫内部の写真をいくつかアップさせて頂きます。こちらは原皮を保管する冷蔵倉庫。塩漬けにされた動物の革が大事に管理されています。

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こちら↓は「なめし」のタイコ。こちらでクロムやタンニンをつかってなめすのですが、ここでのお話で驚いたのがタンニンでもクロムでも、こちらで約1週間もの時間をかけてなめしを行うそうです。通常ドラム(たいこ)なめしは半日くらいで行われるのが一般的です。

ですがこちらでは「原皮から不要な成分をぬき、そこに必要な成分を足していく。100から50の成分をぬいて、10+10+5+・・・・といった具合に、作る革に合わせて必要なものを足して100にする作業がなめしの工程。しっかりと時間をかけて丁寧に行っていきます」とのお話のとおり、非常に時間をかけてなめしの工程を進めていくそうです。

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 こちらは染色用のタイコ。染色には3泊4日かけるそうです。といっても染料には決められた染色時間があるのでそれはその通りのに染色するのですが、その前の下処理など必要な工程にじっくりと時間をかけるとのことです。今回製造している手袋には革に「防水」機能を付けてもらっています(厳密には製品となると縫い目などからの水を防ぐことはできなく、防水ではなく撥水となります)。その機能はこの染色の段階で加工を行っていくそうです。

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↓こちらはコンピューターで管理された機械になります。管理コンピューターと連動して、必要な薬品を「さじ加減」ではなくきっちりと投入することでリピートなどに際してもできるだけ前回に近いものにし、お客様の要望に応えているとのころでした。生き物なのでどれだけ管理しても全く同じにはならないけれど、そのブレを最小限に抑える努力をすることが大事というお話が印象的でした。

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 基本的に染料による芯通しの染めを大事にされていました。革の本来の良さを一番に感じられる染め方だからです。

ご依頼によってはここから様々な加工を加えていきます。ロット間の色ぶれがあってはだめなメーカーさんのご依頼の場合はここから少しずつ表面に色を乗せていき、目的の色に近づけるそうです。1回2回ではなく10回以上重ねることもあるとのこと・・・。大変な作業です。

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 その他にも表面のシボを抑える加工や、艶を出す加工などなど、非常にたくさんの加工方法を自社の工場でされていて、ほんの一部とは思いますがいくつか見せていただくこともできました。ここまで多くの加工を自社工場でされているところは全国でも非常にすくないのだそうです。

 

その他も非常に興味深い工程を見させて頂きました。

なめし後の革の水分を抜く機械↓

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革の厚みを調整する機械↓

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↓革の乾燥。機械式の乾燥機は使わず、自然の風と扇風機で生地を痛めないように乾かしてゆきます。

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それぞれの工程で拘りとその理由をお話いただき、「なるほど」と納得しながらお話を聞かせて頂きました。とてもとてもここには書ききれないので簡単な説明になってしまいましたが、工場見学をしながら株式会社藤本安一商店さんの革作りに対する熱意と技術と拘りを知ることができ、有意義な1日でございました。

この工場で作られた革。鹿革でございますが、その鹿革を香川県の工場で縫製した手袋が9月後半に入荷してまいります。今回工場の見学と担当の方の熱いお話をお聞かせいただいたことで、より一層入荷が楽しみになってまいりました。

製品作りをするにあたって、作り手のお話を聞かせて頂くことは売り手として非常に大きな意味を持ちます。その製品に対する想いを聞かせて頂くと、私もその想いをできるかぎりお客様に伝えたいという熱意が強くなります。製品ページ作りやこういったブログ記事にも熱が出てきます^^

製品の入荷が非常に待ち遠しいです。

 

TAVARAT Store Manager 山本

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 ※本記事及び写真は株式会社藤本安一商店様の許可の下で掲載させて頂いております。